第110回

神代の話 その一
神様の譜系

◇お話し:積哲夫 ◇聞き手:何田匡史
二千十九年三月二十日 配信

何田:積先生、今上陛下は千九百三十三年、昭和八年のお生まれで、終戦を十二歳で迎えられました。その時から憲法にある「日本国憲法第一条、天皇を日本国と日本国民統合の象徴と規定する」の象徴とは何なのか? ということをずっと考えてこられたのでしょうか?

:そう思います。今上陛下にとって戦争に負けた、ということは決定的なのです。今上陛下は戦争に負けた後の天皇なのです。戦争に負けた時は、昭和天皇でした。昭和天皇がマッカーサーの所に行って、「すべての責任は、私にあります」といわれたわけです。その、すべての責任は私にありますといわれたことの背後に、戦争には反対し続けた立場とは別に、明治憲法があったから、という風に今上陛下は思われたはずです。憲法を守るのが、天皇ということです。とすると、今上陛下は、現在の日本国憲法がうたっている「象徴」とは何か? 象徴天皇を忠実におこなおう、とされたのでしょう。こういっても意味が解らないと思いますが、要するに、天皇には私(わたくし)がないのです。この私がないということは、国民のためにどう働くのか? ということです。象徴としての天皇として働く、ということしか、いまの憲法に規定されていないので、象徴という言葉を使われるお立場なのだ、と思います。

何田:今上陛下のメッセージのお言葉はよく考えておられて、言葉が練り上がっていると、私はつくづく思って聞いているのです。よくお考えとお気持ちが文章や言葉に表れていて、言葉がすごいなあ、と感銘いたします。 :歴代の天皇の中で、一生懸命ご自分で考えられておられるのは、たぶん今上陛下だけです。昭和天皇がお言葉やお話しされる時は、事前に下書きの人がおられました。

何田:ああ、そうでしたか。積先生、文章とか言葉には自分の教養とか、知性とか、自分の性格や考え方とか、そんなものがでてきますでしょうか?

:でます。言葉や文章には、自分の精神性がもろにでます。だから、「言葉って怖いよ」と、いつもいっています。

何田:自分の隠れていた精神性が言葉や文章に表れるなんて、本当に怖いですね。

:今上陛下は、何を伝えなければいけないのか? をずっと考えておられたのではないでしょうか。そういう意味では、東北大震災(東日本大震災、二千十一年(平成二十三年)三月十一日に発生)の時に、今上陛下がお言葉を出されたでしょう。あのお言葉は、多くの国民を勇気づけましたね。国民統合の象徴としてのお働きをなされたわけです。日本に天皇がおられてよかったと誰もが思ったはずです。

何田:積先生、ありがとうございました。積先生、新たに質問です。日本の神々様は、昔は人間をされていたのでしょうか?  このへんが一般の日本人の頭の中でわからない点です。神様や神々様はもともと人間だったのでしょうか?

:いいえ、有名な神様や神々様たちのなかで、もと人間だったのは少ないのではないでしょうか。天満宮様は人間でしたけれど。八幡宮様も、応神天皇という人間だったということになっていますが・・・…。

何田:出雲大社の大国主大神様は人間でしたか? だって人間でないと文献の記述通り、アマテラス政権への国譲り後に大国主大神様が住まわれていた建物の遺跡が出てきたわけですから、いかがでしょうか?

:そりゃあ、大国主命様って人間でしょう。地上を統括されていたのですから。大国主大神様は、人間でした。そうでないと国譲りが実際にあったことになりません。

何田:国譲りは大国主大神様とニニギノ命神様(アマテラス大神の孫)との間で行われた政権交代です。(古事記・日本書紀を参照) ニニギノ命神様も、その妻神の木花咲耶姫神様(コノハナサクヤヒメ神)も人間だった、ということでしょうか?

:ニニギノ命神様は天孫族(アマテラス大御神の天から)で、妻神の木花開耶姫神様は地上の人だから人間です。

何田:ああ、なるほど、そうですか。神様や神々様はどこからが人間でない神様で、どこからが人間だった神様なのかが、わからないのです。これは私としても、なぜか結構興味がある点なのです。なぜなのかわかりませんが……?

:記紀(古事記・日本書紀)をそれなりに読み込んだらね、アマテラス大神は天上界にずっとおられるのです。そのアマテラス大神の孫のニニギノ命神様が天上から地上に降りてこられて、それが現在の天皇家の祖である、というお話になっています。それはそれで信じてあげたらいいのです、神話ですから。 私達日本人のルーツは天から降りてこられた神様で、だから日本国の皆さんは神様の子供なのです。そういう神話を持った民族が、この地球上にどれだけいますか。だから菅原道真公がお祀りされて天満宮の神様になられました、というのも別に不思議ではありません。そのストーリーの上で、私がやっているように戦争で亡くなった人達を神様にしてあげるというのは不可能ではないとわかっていただけるでしょう。ですから、「人間は神様になれる」のです。これが、日本の仕組みなのです。人間は神様になれるということ、です。

何田:徳川家康公もでしょうか?

:徳川家康さんは、天海(てんかい)さんが日光東照宮に東照大権現(とうしょうだいごんげん)の神様としてお祀りしました。それだけが原因ではないでしょうが、日光東照宮に行ったときに、徳川家康さんはおられましたね。

何田:ああ、そうでしたか! 日光東照宮に徳川家康公はおられますか、それはすごいです。 積先生、お話をありがとうございました。